…ある日突然、こんな電話が、お客様からかかってきました。
システム開発業を営むD社長は、あわてました。
小さな会社だけに、契約は大口数社のみ。
解約されれば、会社は倒産してしまいます。
D社長「えっ?!何かAが大きなトラブルでもおこしましたか?」
お客様「そういうわけじゃないけど、業務態度がね。
あのままいてもらうと、うちの社員にも悪影響を出しそうだから」
D社長「ちょっと待ってください。Aに話を聞いてから、ご連絡差し上げてもよろしいですか?」
お客様「構わないけど、早めにね。」
D社長「分かりました。ありがとうございます。」
電話を切ってからも、一体Aさんが何をしたのか、気になって仕方がありません。
そこで、すぐにAさんに電話をし、その日のうちに話を聞くことにしました。
話を聞いてみると、採用面接のときは気が付きませんでしたが、
確かに横柄な態度。自分の責任を追及されると、ヒステリックに話すなど、
社長も「確かに、お客様も良い気分がしないのかもな…」と感じました。
採用後しばらくの間は何度か大きなミスを起こして社長も気にしていましたが、
お客様も「来たばかりだから」と許してくれていたことはあります。
今は、Aさんは態度はよくないものの、仕事においては、
大きなミスをすることはあまりありません。
D社長「Aですが、厳しく指導しましたので、もう少しだけ、使ってみて
それから判断をしていただけませんか?」
お客様「そこまでいうのであれば。でも、これ以上Aさんの態度が悪化するなら、
おたくとの契約は解除するからね?」
クビを宣告するのは、良い気分ではないので、
そうやって、ついつい引き延ばしているとどんどん難しい状況になってきました。
お客様「D社長はAさんを指導したというけど、ちっとも変わらないよ?
もう我慢できないので、契約は解除させてもらうから!」
D社長「分かりました。申し訳ございません。すぐにAを担当から外しますので、
契約の解除だけは考え直していただけませんか?」
契約解除は思いとどまってもらったものの…
そんなやり取りがあって、D社長は意を決して、Aさんに言いました。
「お客様から、『君が担当するなら契約を解除する』という話しが来ているんだ、
うちは小さいから、知っての通り、あそこ以外の仕事はない。
だから君を雇い続けることができないんだ。辞めてもらえないだろうか。」
すると、Aさんは
Aさん「私が何かしたんですか!向こうが勝手に言っているだけで私は悪くありません!」
D社長「しかし、先方から言われているし。去年大きなミスをしたよね?
それが響いているんじゃないかな。なんにせよ、このまま雇うことはできない。
ちゃんと『法律に基づいて、1ヵ月分の給料を払う』から。」
Aさん「わかりました。社長は私を解雇したいんですね。考えます。」
D社長「悪いけど、頼んだよ。」
…そして、1週間後、労働局から一通の通知書が届きました。
『A氏が不当解雇を訴え慰謝料として12ヶ月分を訴えています。“あっせん”を受けますか?』
というような内容でした。
「そんな金額、小さな会社に払えるわけがない!!解雇予告手当は払ったはずだ!!
ところで…そもそも“あっせん”とはなんだろう??」
そこで、弊事務所にご相談にいらっしゃったのです。
近年、このようなご相談が良く見受けられます。
特に、リーマンショックの起きた平成20年を境に、非常に増えているように感じます。
上記の事例は労働局の“あっせん”の申込でしたが、他にも
など、様々な労使トラブルのパターンがあります。
「社員を解雇したんだけど、1か月分の給料を払っているから大丈夫だよね?」
多くの社長がそのように思っていらっしゃるようですが、実はそこに落とし穴があります。
解雇トラブルは、“労働基準法の問題ではない”のです。
労働基準法に記載されている「解雇予告手当は30日分の給与」。
このことは、よく知られており、
この支払の有無でトラブルになることは、ほとんど聞いたことがありません。
しかし、解雇のトラブルはよく発生しています。
なぜでしょうか?
それは解雇自体、
法律で「正当な理由がないとできない」ことになっているからです。
すなわち、正当な理由がある「解雇」であるか、
それとも「不当解雇」であるかどうかという点が問題となるのです。
D社長「ミスをした社員をクビにすることは正当ではないか?」
おっしゃる通りです。
ですが、解雇が正当と認められるかどうかには、下の3点が非常に重要となるのです。
少し詳しく説明しますね。
さて、D社長の場合、“あっせん”で解決を図りました。
“あっせん”とは、労働局の“あっせん委員”が、
時間をずらして個別に面談を行い、和解を目指す制度です。
当初は、Aさんが自らの非を一切認めない態度に、
D社長も、あっせんではなく裁判で白黒つけるとまでなっていましたが、
・民事裁判では、係る費用も大きくなること、
・仮に和解したとして、一般に労働審判を含めた裁判制度の方が、
“あっせん”よりも和解金も多額になること、
を説明し、最終的に私たちが代理人となり、あっせんを受託することにしました。
そして、あっせん委員との調整により、和解金による解決となり、
給与12ヶ月分の請求を、3か月分へと、大幅に請求額を減らすことができました。
解雇トラブルは、
社内トラブルから、労基署・弁護士・労働組合などの社外を巻き込んだトラブルに、
さらに“あっせん”、最後には裁判など時間をおけばおくほど、取り返しのつかない結果になり、
解決するために、よりいっそう高い費用が掛かります。
「社員の働きに不満がある」
「大きなミスをしたが、どのように叱責しようか迷っている」
「一人の社員が組織の輪を乱している気がする」
そんな、つい我慢してしまうほどの些細な状況の時から、
トラブルを防ぐための準備は必要になるのです。
ちょっとでも気にかかることがあれば、
まずは一度、お気軽にご相談ください。
雇用問題のプロが、お悩みやご不安を解決いたします。
企業における「人」に関するトラブルを解決するためのコンサルティングを専門とする特定社会保険労務士。
法的なアドバイスはもちろんのこと、現場に基づいた具体的な対応策に定評がある。
長時間労働による精神疾患が多くみられるシステム開発会社や、映像制作会社などにおいて、
トラブルを拡大しない休職のアドバイスのほか、行方不明になってしまった社員への対応など、同種の士業としては珍しく、自らトラブル解決のために現場に赴くことも多い。
また、中部生産性本部、愛知県経営者協会などにおいてコンプライアンス・リスクマネジメント管理、人事労務管理等における経営者向けのセミナーや、
各地域の社会保険労務士会などの専門家向けの研修の依頼を受け講義を行うなど、行動分野は多岐にわたる。
『本当に解雇である必要があるのか』
「会社から契約を終わらせる方法」=「解雇」だけではありません。
冒頭のケースの場合、本人の落ち度が何であるか、会社側もいま一つわかっていません。
そうなると、解雇事由が不明確であるため、解雇が正当であることを主張するのは困難です。
しかし、中小企業では、配置転換の余地がとても少ないため、
Aさんが担当する業務がなくなってしまうのは、決定しています。
そこで、そのことを本人に説明し、
契約を終了させる方法=『退職勧奨』も解決策の一つとなります。
私たちは、退職勧奨の際、本人にどのように説明したらよいかも含め、
ご協力するケースも良くあります。また必要に応じ、面談に同席することもあります。
『うちの会社は小さいからまだ就業規則は必要ない』
という社長も多いですが、小さい会社の社員は、問題を起こさないのでしょうか?
確かに、労働基準法では、10人未満は就業規則の作成義務はありません。
しかし、大きな会社なのか、小さな会社なのか、問題が起きるのに規模は関係ありません。
個別の管理ができてなく、法的に整備されていない小さな会社ほど
トラブルになる可能性は大きくなるものです。
それに、「解雇」トラブルの問題は労働基準法での争いではなく、
『契約解除が適正であるか?』という「民法上」の問題となります。
10人未満であっても民法上の問題は等しく関わってきます。
だからこそ、「しっかりとした会社のルール=就業規則」を定めておく必要があるのです。
「就業規則をつくると、それに縛られてしまってトラブルの際に会社が不利になる」
よく、昔の専門家の方はこのように言っていました。
しかし、現在、解雇トラブルなどに関しては、就業規則がないことで、
会社が有利になることは一切ありません。
なぜならば、元々、労務トラブルでは、従業員有利に判定されます。
したがって、契約していないこと、ルールとして決まっていないこと、については、
従業員有利に判断されるのです。
「年次有給休暇は、就業規則に定めるから取得をさせなければならないんでしょ?」
これも誤解です。
年次有給休暇を含めた法律で定められた制度は、就業規則があろうとなかろうと、
会社から従業員への義務です。
ですから、就業規則を定めることの弊害とは言えません。
もちろんただ就業規則があればいいというわけではありません。
社長が昔在籍していた大企業向けの就業規則をそのまま使っていたり、
行政が出している就業規則を少しアレンジして使っていたり、
その会社の実態にそぐわない就業規則は、確かに害があります。
しかし、このような部分だけを切り取って、「就業規則に縛られる」と考えるのは早計です。
ぜひ会社の実態に合った就業規則を作成してください。
初回のご相談は無料です。
人事トラブルは『対応スピード』が円満解決の大きなポイントになります。
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